第28話「ダメージ・ライター」

 漫画家のFさんが、地元で行われたフリーマーケットで変わったライターを見つけた。それは、兵士たちが戦場で使ったという“ダメージ・ライター”と呼ばれるもので、持ち主が想いを込めライターに刻んだメッセージと、戦場でついた深い傷が、戦場の生々しい様子を伝えている。
「こりゃ、マンガの資料にうってつけだな」
一目惚れしたFさんは、迷うことなくそれを購入した。

 家に戻り、ライターの汚れを綺麗に拭き取ると、Fさんはそれを寝室のテーブルの上に置いた。
 その日の夜、部屋の中の気配でFさんは目を覚ました。
灯りが消えた暗い部屋の中、目を巡らせると、少し離れたテーブルの前に、大柄の男が立っている。はじめはアシスタントでも入ってきたのかと思っていたが、次第に目が慣れてくると、それは野戦服を着たジャーヘッドの男だと言うことがわかった。男はジッとテーブルの上を見つめたまま動かない。
(そう言えば以前、払い下げの軍服に兵隊の幽霊が憑いていたっていう話を何かの本で読んだなぁ……)
 Fさんはテーブルに背を向け、布団を被ると目を閉じた。

   その夜を境に、寝室には毎晩のように兵隊が現れた。
 幽霊自体はそれほど怖くないFさんだったが、現れる度に起こされるのはたまったものではない。
「気に入っていたんだけどなぁ……」
 Fさんは兵隊のことは黙ったまま、幽霊とは無縁そうなアシスタントに、ライターをプレゼントした。
プレゼントされたアシスタントは、しばらくの間ご機嫌だったが、程なくして体調を壊すと辞めていったという。

Fさんは懲りることなく、今もライターを探している。
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